そうして始まった話し合いの最中、トイレに立った俺を真涼が追いかけて来た。 |
「うわっ! な、なんだよオイ!」 |
廊下で捕まり、有無を言わさぬ勢いで無人の視聴学室の中へ押し込まれて、 |
「私以外の女と喋ったわね?」 |
「知るか!」 |
「しかも千三十八文字も」 |
「怖い!」 |
なんなんだこいつ。だんだん言うことが極端になってきたぞ。 |
「千和たちとしゃべるなっていうのか?そりゃあんまり無茶だろ。いくら”彼女”たからってそんな権利はねえ」 |
すると真涼は我に返ったようにハッとした。 |
「。。。べ、別にそこまで強制したつもりはないわ。ただ、あなたが他の女の子と話してると、胸が苦しくなるから」 |
俺は大きくため息をついて、 |
「なんでそこまで思いつめるんだよ。偽の彼氏なのに」 |
「自分でもわからないのよ」 |
真涼は俺から目をそらして、可哀想になるくらい肩を落とした。 |
「最近、自分で自分がわからなくなるの。恋愛なんかくだらないって気持ちは変わってないのに、あなたといると恋愛脳みたいな真似をしたくなるのよ。一人になってから我に返って、自己嫌悪するのだけれど。。。あなたの顔を見ると、やっはりまた繰り返してしまうの」 |
これはかなり重症だ。 |
真涼は本気で俺のことが好きになった――みたいな都合の良い解釈も成り立つが、おそらくそうじゃない。 |
まさに真涼が言う通り、恋人を演じているうちに「自分でもわからなくなった」のだ。 |
「あんまり考えすぎるなよ。演じることにマジになりすぎて、自分でも混乱してるんじゃないのか?ミイラ取りがミイラになる、みたいな」 |
「ええ。。。」 |
俺はふと思いつき、 |
「そうだ。『季堂鋭太は偽の彼氏』って、十回くらい唱えようぜ」 |
「。。。そしたら、一度だけ抱きしめてくれる?」 |
うお。 |
「お。おうっ。お安い御用だ」 |
ようやく真涼は少し笑顔を見せてくれた。 |
「季堂鋭太は偽の彼氏、季堂鋭太は偽の彼氏、季堂鋭太は偽の彼氏、季堂鋭太は偽の彼氏、季堂鋭太は偽の彼氏、季堂鋭太は偽の彼氏、季堂鋭太は偽の彼氏、季堂鋭太は偽の彼氏、季堂鋭太は偽の彼氏、季堂鋭太は」 |
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